落体の運動方程式(ものすごく簡単な非線形微分方程式)
今まで扱ってきた線形微分方程式は斉次線形微分方程式とも呼ばれるものである。シンボリックに書くと、パラメータ を含む変数 に対して
\begin{align} L[a_0, a_1, \dots, a_n] = a_0 + a_1 \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d} t} + a_2 \frac{\mathrm{d^2}}{\mathrm{d} t^2} + \cdots + a_n \frac{\mathrm{d^n}}{\mathrm{d} t^n} \end{align}
で定義される微分作用素 を作用させた の形で書ける微分方程式が斉次線形微分方程式と呼ばれる。ここで は の函数あるいは定数。この微分方程式を解くことは線形代数で扱った行列の核(カーネル)を求めると言い直しても良い。
一方で上記のように書けない微分方程式、たとえば の形になる微分方程式は非斉次微分方程式と呼ばれ、 が の函数だったり、あるいはもはや を含んで の形で書けない場合は非線形微分方程式と呼ばれる。斉次/非斉次(あるいは同次/非同次)と線形/非線形との分類がある。非斉次であれば非線形だが斉次だからといって線形とは限らない。線形でないと一般的な解法は存在しないことが多くなる。というのも名前からも分かるようにまず線形和が作れない。
ここでは簡単な例としてまず定重力場のもとでの運動方程式を考える。それは高校物理でも扱われていて
\begin{equation} m \ddot{x} = -m g \end{equation}
と書ける。 をそれぞれ質量と重力加速度とする。また文字の上のドット1コにつき での1階微分を表わす。これが一番最初に出てくる非斉次微分方程式かもしれない。これは定数なのですぐ何も考えず2階積分してしまえば
\begin{align} x = -\frac{1}{2} g t^2 + v_0 t + x_0 \end{align}
のように解けてしまう。ただし はそれぞれ初期速度、初期位置をイメージした積分定数とする。
非斉次といえども斉次での解も必要になる。境界条件が決まらない限り非斉次微分方程式の解は斉次微分方程式の解の分だけ不定性をもつ。なのでちょっとここで線形微分方程式の考え方を試してみる。つまり の仮定のもと斉次微分方程式 にして考えてみる。もちろん なのでまずは となる。これは重解なので前回同様 もの解も元の方程式の解のひとつになる。したがって斉次微分方程式 を線形微分方程式のパターンで解けば
\begin{equation} x = v_0 t + x_0 \end{equation}
が得られる*1。したがって最初に何も考えず2階積分した時に得られる解の2項目3項目は斉次方程式の解であることが分かる。もちろんそれを表わしているのが2つの積分定数 である。言い換えると問題の2階微分方程式のカーネル(の要素)を表わしている。
それでは最初に示した解の1項目はどうやって求めるかを考える。ここで元の非斉次微分方程式をもう1回微分してみる。すると斉次3階微分方程式 が得られる。これを線形微分方程式として先ほどと同じ手順で計算すると
\begin{equation} x=a_0 x^2 + v_0 t + x_0 \end{equation}
が得られる。これがこの微分方程式のカーネル(の要素)を表わしている。
考えている非斉次微分方程式に戻ると。このカーネルの要素から係数を合わせれば のように欲しい解が得られる。
以上のように非斉次でも定数というものすごく簡単な場合ではあるが非斉次2階微分方程式を3階線形微分方程式と2階線形微分方程式とのカーネルを比較することで線形微分方程式の解法パターンに含まれる形として解くことが出来た*2。